一般相対論において、重力は時空の曲がり具合として表現される。
「ある座標系における計量の成分が座標に依存するから、その時空は曲がっている!」という主張を耳にすることがある。
この主張が一般には正しくないということを、簡単な平坦な空間である2次元平面を例にして説明する。
デカルト座標系における計量の成分
まず、2次元平面(つまり、平坦な2次元空間)上のデカルト座標における計量の成分を求める。
この平面上の2点 \(A, B\) を結ぶ曲線の長さ \(s_{AB}\) を考える。
この平面上にデカルト座標 \((x,y)\) をとる。

曲線を微小な長さの直線の集まりと近似する。
すなわち、曲線を \(N\) 分割し、\(i\) 番目の直線 \(\Delta s_i\) を足し合わせ、\(N\to\infty\) の極限をとる:
\begin{align}
s_{AB}&=\lim_{N\to\infty}\sum_{i=1}^{N}\Delta s_i=\int_{A}^{B}ds,\\
\Delta s_i&=\sqrt{(\Delta x_i)^2+(\Delta y_i)^2}.
\end{align}
\(N\to\infty\) の極限で \(\Delta s_i\to ds\) となるので、
\begin{align}
ds^2=dx^2+dy^2.
\end{align}
これは2次元平面上の無限小離れた2点間の距離(の2乗)を表していて、2次元平面の線素という。
\(x=x^1, y=x^2\)とおくと、
\begin{align}
ds^2=\sum_{i,j=1}^{2}\delta_{ij}dx^idx^j=\delta_{ij}dx^idx^j.
\end{align}
ここで、\(\delta_{ij}\) は Kronecker のデルタと呼ばれる記号であり、次のように定義される:
\begin{align}
\delta_{ij}=
\begin{cases}
1\qquad\text{for}\quad i=j,\\
0\qquad\text{for}\quad i\neq j.
\end{cases}
\end{align}
\(\delta_{ij}\) は2次元平面上のデカルト座標系における計量テンソルの成分である。

別の座標系をとると、一般に計量テンソルの成分は $\delta_{ij}$ ではなくなります
極座標系における計量の成分
次に、2次元平面上に2次元極座標をとってみる:
\begin{align}
x=r\cos\varphi,\quad
y=r\sin\varphi.
\end{align}
これらの全微分をとると、
\begin{align}
dx&=\cos\varphi\,dr-r\sin\varphi\,d\varphi,\\
dy&=\sin\varphi\,dr+r\cos\varphi\,d\varphi
\end{align}
となるので、線素は、
\begin{align}
ds^2=dx^2+dy^2=dr^2+r^2d\varphi^2.
\end{align}
2次元平面上の計量を極座標の成分で表すと、
\begin{align}
ds^2&=g_{rr}dr^2+g_{\varphi\varphi}d\varphi^2,\\
g_{rr}&=1,\qquad g_{\varphi\varphi}=r^2
\end{align}
となり、計量の成分は座標に依存する。
このように、2次元平面は明らかに平坦な空間であるが、計量の成分は座標に依存することがある。
「計量の成分が座標に依存する⇒空間が曲がっている」という主張は一般には誤りです