【解析力学】Poisson括弧が満たす関係式「Jacobi恒等式」の証明

Poisson括弧におけるJacobi恒等式の証明

(q,p,t) の任意関数 f,g,h に対する Poisson 括弧 は次の Jacobi 恒等式を満たす。

Jacobi 恒等式
(1){f,{g,h}}+{g,{h,f}}+{h,{f,g}}=0

この記事では、Poisson 括弧の満たす関係式の一つであるこの Jacobi 恒等式を証明する。

Poisson 括弧の定義

2 つの任意関数 f=f(q,p,t),g=g(q,p,t) に対して、Poisson 括弧を次で定義する。

(2){f,g}i=1N(fqigpifpigqi).

ここで、N は系の自由度である。

Jacobi 恒等式の証明

Poisson 括弧 は次の Jacobi 恒等式を満たす。

Jacobi 恒等式
(3){f,{g,h}}+{g,{h,f}}+{h,{f,g}}=0

これを証明する。

準備

まず、N 個の正準座標 qiN 個の正準運動量 pi を合わせて、2N 個の変数 ξI をつくる。

(4)(ξ1,,ξN,ξN+1,,ξ2N)=(q1,,qN,p1,,pN).

I=1,,2N であることに注意する。(一方で、i=1,,N である。)

この変数 ξI を用いると、Poisson 括弧 (2) は、

(5){f,g}=I,J=12NΩIJfξIgξJ=ΩIJIfJg

とかける。

ここで、IξI と略記し、Einstein の規約を用いた。

また、ΩIJ は次で定義される量である。

(5)Ωi,N+j=δij,ΩN+i,j=δij,Ωi,j=ΩN+i,N+j=0(i,j=1,,N).

これを行列表示すると、

(6)Ω=(0110)

で表される 2N×2N 行列となる。

ここで、0N×N ゼロ行列、1N×N 単位行列である。

証明における重要な性質として、Ω反対称性をもつことに注意する。

(7)ΩIJ=ΩJI,Ω=ΩT.

特に、N=1 のとき、(5) の右辺は、

ΩIJIfJg=I,J=12ΩIJfξIgξJ=Ω12fξ1gξ2+Ω21fξ2gξ1=fq1gp1fp1gq1(6)={f,g}

となり、確かに Poisson 括弧に等しいことがわかる。

本編

準備が終わったので、あとはひたすら計算するだけです!

まず、{f,{g,h}} を計算する。

{f,{g,h}}=ΩIJIfJ{g,h}=ΩIJIfJ(ΩKLKgLh)(7)=ΩIJΩKLIfJKgLh+ΩIJΩKLIfKgJLh.

1つ目の等号では、 f{g,h} の Poisson 括弧を (5) を用いて書き直した。

2つ目の等号では、{g,h}(5) でかいた。

3つ目の等号では、Leibniz 則(関数の積の微分法)を用いて、JKgLh にそれぞれ作用させた。

Jacobi 恒等式の左辺の残りの 2 項は、この結果において f,g,h を巡回置換させたものである。

よって、

{f,{g,h}}+{g,{h,f}}+{h,{f,g}}(Y1)=ΩIJΩKLIfJKgLh(Y2)+ΩIJΩKLIfKgJLh(Y3)+ΩIJΩKLIgJKhLf(Y4)+ΩIJΩKLIgKhJLf(Y5)+ΩIJΩKLIhJKfLg(Y6)+ΩIJΩKLIhKfJLg

とかける。

この右辺の各項には関数 f,g,h がそれぞれ 2 階微分された項が2つずつあるので、それらを組にして考える。

つまり、(Y1) と (Y6)、(Y2) と (Y3)、(Y4) と (Y5) をそれぞれ組として考える。

結論としては、

(8)(Y6)=(Y1),(Y3)=(Y2),(Y5)=(Y4)

となり、Jacobi 恒等式が示される

Jacobi 恒等式
(9){f,{g,h}}+{g,{h,f}}+{h,{f,g}}=0

(8) の計算は以下にまとめたので、必要な方のみ参照してください!

補足計算

まず、(Y6)=(Y1)を示す。

(Y6)=ΩIJΩKLIhKfJLg=ΩLKΩIJLhIfKJg=ΩKLΩIJLhIfJKg=ΩIJΩKLIfJKgLh(10)=(Y1).

2 つ目の等号では、ダミー添字の付け替え KILJK を行った。

3 つ目の等号では、Ω の反対称性と偏微分が可換であることを用いた。

4 つ目の等号は順番を整理した。

次に、(Y3)=(Y2) を示す。

(Y3)=ΩIJΩKLIgJKhLf=ΩKLΩJIKgLJhIf=ΩKL(ΩIJ)KgJLhIf=ΩIJΩKLIfKgJLh(11)=(Y2).

2 つ目の等号では、ダミー添字の付け替え KJLIK を行った。

3, 4 つ目の等号では先ほどと同じ操作をした。

最後に、(Y5)=(Y4) を示す。

(Y5)=ΩIJΩKLIhJKfLg=ΩKLΩJIKhLJfIg=ΩKL(ΩIJ)KhJLfIg=ΩIJΩKLIgKhJLf(12)=(Y4).

2 つ目の等号では、ダミー添字の付け替え KJLIK を行った。

3, 4 つ目の等号では先ほどと同じ操作をした。

これで補足計算を終わります!

まとめ

この記事では、Poisson 括弧が満たす関係式である Jacobi 恒等式を示した。

Jacobi 恒等式
(13){f,{g,h}}+{g,{h,f}}+{h,{f,g}}=0
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